「まだ、少しかかりそうなんです。今日もクロワッサン?」

「クロワッサン薦めたの、お前だろ。飽きるまで食べる」

「…88円です」

100円玉が無造作に手渡された。


「時間、適当につぶしとくから、また連絡して」

「先に帰ってて下さい、どれぐらいかかるか分からないし」

「いや、雨降ってるしさ。結構はげしめに」

「ほんと、久しぶりに雨って感じの雨ですよね。気をつけて帰って下さいね」

「…車、乗って帰るかと思ったんだけど。
まあ、いいや、寂しく一人で帰るよ」

あ。
そういうこと、だったのか。

鼓動が跳ねる。

背を向けて、歩き始めた宮本さんを、とっさに引き留めたいと思って、でも何て言ったらいいか分からない。