集団登校が始まった。

 優一と和希が南朋を迎えに来てくれた。


 南朋は黙って、ただ先頭の優一の背中を頼りに歩いた。

 だが、学校へ着くと、大きな学校は、低学年と高学年にしっかり別れてしまっていた。


「ここが、南朋ちゃんの玄関だよ」

 優一はそう言うと、友達の元へ走って行ってしまった。


 南朋は、とても心細くなった。


 南朋は存在を消すように、そっと教室に入った。


「挨拶もできんのか!」

 後ろからの女とは思えない鋭い田川先生の声に南朋は震えた。


「おはようございます」
 
 南朋は慌てて挨拶した。


「おはよう!」

 田川先生は厳しい声で言った。


 一時間目は国語だった。

 驚く事に、先生は新しい教科書の、ニ十ページ目にある物語を開けと言った。


 そして、そこまでの説明文は家で呼んで来いと言った。

 その上、そこまでの漢字を十回づつ書いて来いとまで言った。

 忘れたら絶対怒られる事だけが分かった。



「じゃあ、千春ちゃん呼んで見て」

 田川は優しい声で、物語を読むよう指示した。

 昨日ソロの部分を歌っていた子だ。

 千春は大きく息を吸うと、まるで演技でもしているかのように、教科書を読みだした。

 南朋は驚きと言うより、この音読に恐怖を感じた。


「じゃあ、みんな声を出して、音読の練習して!」

 田川先生の声に、皆が席を立って、大きく息を吸うと、めいめいに声を出し始めた。

 南朋も慌てて立ち、音読を始めた。


「南朋ちゃん、棒読みだよ」

 隣の席の男の子が、田川先生に向かって言った。


「南朋ちゃん読んでみて」

 田川先生の声に、教室が静まり返った。


 南朋、いつもの通りの音読を始めた。

 一行も読み終わらないうちに、クスクス笑う声がし、


「もっと、感情込めて読めんのか! 家で練習して来い!」

 田川先生の声に、南朋は恐怖しかなかった。


 学校から帰ると、南朋は慌てて勉強机に向かった。

 宿題を忘れたら絶対に怒られる。

 山ほどの宿題を必至に片付けていた。


「お姉ちゃん、公園行こう」

 翔が言った。


「今日は行かない」

 南朋は宿題に必至だった。


「お姉ちゃん勉強中よ。翔、一人で行きなさい」


 母の声は少し嬉しそうだった。

 南朋が勉強する姿に感心していたのだろう? 

 それも、田川先生のお蔭だと……