家に戻ると、母は上機嫌だった。


「南朋はきちんと自己紹介出来たんですよ。あのクラスの歌声の素晴らしい事。あんな声で南朋が歌えるようになるなんて。転校してきて良かった」

 母は嬉しそうに、おばあちゃんに話していた。

 その横を、南朋は何も言わず通り過ぎ、翔と公園へ行った。

 今は母の話を聞きたくなかった。



「南朋ちゃん何組になった?」

 和希が聞いた。


「一組」

 南朋は何故か、小さい声になってしまった。


「……」


 和希も優一も何も言ってくれない。

 益々、南朋は不安になった。



「担任怖いよな」

 和希の言葉が、南朋の恐れていた答えだった。


 その言葉をかき消すように、優一が声を上げた。


「落とし穴作ろうぜ!」

 優一の声に、南朋は何故かほっとした。


 無我夢中で落とし穴を作った。


 誰かの落ちるのを隠れて待つ、南朋の後ろの優一に南朋は少しだけ安心感を覚えた。


 まさかの、翔が落とし穴に落ちて、南朋はおかしくてしょうがなかった。


 皆も涙を流して笑っていた。


 翔のズボを払う優一の優しさに気が付くのは、南朋がずっと大人になってからになるとは、この時は思ってもいなかった。


 優一と公園で遊ぶのは、これが最後だったからだ……