入学式の朝、新しい紺のワンピースに着替え、車で学校へ向かった。

 もの凄い緊張感だ。


 何度も母に、自己紹介の練習をさせられ、益々緊張が高まった。


「三年一組です」

 教頭先生に紹介され、担任の先生が来た。

 四十歳過ぎの女性が笑顔を見せた。



「担任の、田川良子です」

 ハキハキとした、少しとげのある声が、南朋は好きになれなかった。


 田川先生は南朋の手を取り、教室への廊下を説明しながら歩いた。

 その姿に、母は良い先生で安心したと言った。


 教室に入ると、生徒達が一斉に南朋を見た。

 何故だろう? この教室の空気なんか嫌だ。



 田川先生に言われ自己紹介を促された。

 南朋は大きく息を吸って声を出した。


「東京の鈴野小学校から来ました。崎宮南朋です。よろしくお願いします」

 南朋は精一杯の声を出した。

 皆からの拍手があがった。

 その拍手が息苦しかった。



「じゃあ、せっかくだから南朋ちゃんの為に、皆で歌を歌いましょう」

 田川先生の声に皆が一斉に

「はい!」

 と揃えて返事をした。


 何か変だ……


 先生の指揮で、一斉に歌い出した声は、大きく揃っていて教室の空気がピリピリとなった。


 皆同時に両手を広げて息継ぎをする姿が、異常だ…… 


 そして、一人の女の子のソロが始まった。

 高い声がキンキンとして頭が痛い。


 だが、そう思ったのは南朋だけだった。


 母は感動して、こんなクラスで学べるなんて、南朋は幸せだと、田川先生に話していた。