女優は顔に汗をかかないというが…?




シキは女優

そう、常に女優だった

“リョウ”という
まるで美術館に飾られる一つの作品のような
美しい仮面を被り

汗などかかず
常にいい香りがシキの体を包み込んでいた



そんなシキが初めて汗をかいた瞬間
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キキ――――――――!!!!!!


    『着いた!!』


幼稚園を出てから20分
右へ左へ人混みを掻き分け
辿り着いた先は…



    『黄金苑』



ここに来てまで光物に食いつくのか!この女は!

読者はそう思うだろう
汚いものは全て嫌ってきた人間

汚いもの、その自分さえも憎たらしさを生み出しているほどだ

しかし名前のわりに汚い看板

ボロボロになったのれん

シキにとっては
今もこれからも決して交わる事がない

そう言っても過言ではないような古い古い小さな店



『はぁ…はぁ……やばい』

シキは時間に追われながらも
中に入る事ができなかった

なぜ?


無経験は緊張を呼ぶから

シキの頭内に
こんな堅苦しいデータは
今まで存在しなかったから…?



シキに緊張なんて似合わない

毒舌で
思った事は必ず行動にうつす
素直とはかけ離れた芯の強さ

それはシキ自身も自覚しているはず

きっとそれがこの子にとって生きる糧だったからだ



シキは自転車を端に停め
ゆっくりと
ボロボロになったのれんを
掻き分けるようにくぐった


『こ、こんにちは!!』



これが
シキが初めて
“自分を信じよう”



そう意を決した瞬間だった