そんなことにならなくて良かった。
いない、の一言に安堵する。
私にもまだ、チャンスあるんだ。
「伊澄くん、ってさ。」
「ん。」
「……好きな人、とか、いたりする?」
「え……。えっと……。
…………いる、よ。」
「っ、そ……うなんだ。」
「……小笠原さんは?」
「…………いるよ。」
息ができない。
心臓を鷲掴みにされたよう。
伊澄くん、好きな人いるんだ。
隣、顔向けられないや。
好きな人がいる。
伊澄くんに想われている人がいる。
この気持ちを、伊澄くんもしている。
今までで一番心臓がドクドク脈打っている。
伊澄くんにまで聞こえてしまいそうな勢いで。
ドクドク、ドクドク。
音を立てている。