私の名前を呼ぶ声がした。
この声。


「その、だくん?」


「大丈夫か?」


「……だい、じょうぶ。」


慌てて涙を拭って立ち上がる。
辺りを確認すると誰もいなくて。
教室は私と苑田くんふたりだけだった。


「ごめん、噂があったから話しかけないようにしてたんだけど。小笠原さん辛そうだったから。」


「そんなに見える……かな。」


「彗が原因だろ?」


「それは……。」


「言ってみなよ。口に出した方が楽なことってあるし。」


そう言った後、苑田くんは参考書を開き始めた。
教室中にペンを走らす音が鳴り響く。
その優しい配慮に心が溶かされていくような気がした。


「伊澄くんと話できなくて。避けられちゃってて。ずっとこのままだったらどうしようって……。今すごく怖い。私、振られちゃうのかな……。」


「それはないと思うけど。」


「……どうしてそう言い切れるの?」