「私の方が可愛いし。」
「何かの間違いだって。」
非難の声をあげて帰っていった。
すみれと理香子が私を隠してくれているから。
事が大きくならずに済んでいるけど。
移動教室で廊下を歩くたびにじろじろ見られるのは辛かった。
目立ちたくないし、からかわれるのも嫌だ。
こんな恥ずかしい思い、絶対したくなかったのに。
いちばんしたくなかった思いをしている。
怖くなった、歩くのが。
誰かが話しているのを見ると、私の事を話してるのかもって。
そう思ってしまう。
すみれと理香子がなぐさめてくれるけど。
全然耳に入ってこなくて。
そして一度も。
この日、伊澄くんと目が合うことはなかった。
伊澄くんといつもと違う行動を気のせいだと思って1週間。
この行動が、気のせいではなくわざとだってことに気付いた。
あれから噂はだんだんとおさまっていって。
私と苑田くんが話す姿を誰も見ていないからか。
不確定な要素の多い噂話と。
初日にばっさりと否定した苑田くんの言葉の効果が大きかったのか。
みんな次第に噂が嘘だと気付いて。
1週間もたてば、他の話題に興味がそれていった。
それでも1週間、みんなの好奇の目にさらされて歩くのは。
体力的にも精神的にも辛くて。
ずっと下を向いて学校を過ごした。
ほんと私、弱いなあ。
苑田くんとか平然としてるのに。