みんな花火大会に行く人なんだ。


朝の通勤ラッシュに近いくらいの人の多さに人酔いしてしまいそうになる。
下駄だからあんまり早く歩けないし。
どんどん、伊澄くんとの距離が開いていく。


全然気付いてない。
私との距離に気付いていない伊澄くんは。
振り向くことなく歩いていく。


待って、伊澄くん。
名前を呼んでも聞こえてない。


このままじゃ離ればなれになっちゃう。
どうしよう。
人多いから、強引に前に行けないし。
浴衣着崩れちゃうし。
なんでこっち向いてくれないの……。


我慢してきた不満が一気に押し寄せてくる。
もうばか、ばかばか。
伊澄くんのバカ。
伊澄くんの……。


「す、彗くんっ!!待って!!」


ありったけの声を出して。
伊澄くんに、彗くんに届くように叫ぶ。


私の声が聞こえたのか伊澄くんは。
びっくりしてこちらを振り向いた。
その時は初めて、私達に出来た距離に気付いたらしく。
慌ててこっちに駆け寄ってきた。


「ごめん、気付かなくて。」


「大丈夫。」