「小笠原さん。」


「は、はい。」


「席、あいてるの。座って。」


「でも伊澄くん……」


「浴衣、つらいでしょ。」


そう言って手を引かれて空いてる席に座らされる。
確かに浴衣で立ってるの辛いし。
気遣いはありがたかったけど。


つらい。って。
つらくても、可愛いって言ってもらいたかったから着てきたんだよ。


お世辞でもいいから。
かわいいって、言ってほしかったのに……。


また、ひとつ。気持ちが暗くなる。


座ったまま巾着の模様を眺める。
前に立った伊澄くんの顔見れない。
また目逸らされるの、怖いし。
なんでこんなに暗い気持ちになるんだろう。


やだ、もう。
私のバカ。
伊澄くんの、バカ。


そのまま一言も話すことなく隣町までたどり着く。
電車を降りてからも伊澄くんが私の隣を歩くことはなく。
ずんずんひとりで歩いていってしまう。


「い、ずみくんっ。」


駅の改札を抜けてからは人の数が多くなった。