「相変わらず東はあまちゃんばっかりやなぁ」
上座から聞こえてきたのは柊さんの呑気な声。
あまりにもこの場には似合わない声色。
だけど…柊さんの纏う雰囲気はその声とは正反対のものだった。
扇子片手にゆっくりと立ち上がり、昌さんの前で頭を下げる館山さんの所へと移動した柊さん。
「僕のとこの野郎共なら…」
──ピシリと風を切る音がして…何かと思えば、柊さんの扇子が館山さんの首元にあった。
「今ごろ、頭と体がお別れしとるで」
その言葉と同時に春名と秋庭の幹部の何人かが立ち上がり、畳に沈んでいる4人の組長を広間から連れ出した。
慌ただしい中で丁度、弘翔が戻って来た。
どうやら返り血を浴びた着物を着替えていただけらしい。
その時間に少し落ち着いたみたいで、さっきまでの殺気は鞘に収められている。
眉間に深く皺を寄せた弘翔は他の誰に目をくれることもなく真っ直ぐに私の所まで来て…声を掛ける暇もなくキツく抱きしめられる。
「…………。」
「…………。」
「…弘翔?」
「すまん」
なにに対して言ってるのか分からなくて顔を上げようとしたけれど、きつく抱きしめる弘翔の腕がそれを許してくれない。
弘翔が私に謝らなければいけない事なんて何一つなくて、心配をかけた私の方が謝るべきだ。この人はこんな状況でも私に甘すぎる。
─「弘翔」
「…わかっている」
慌ただしく4人の組長が連れ出され、ひとまず場が落ち着きを取り戻したところで蓮さんから言葉が掛かる。
蓮さんと柊さんだけは、場違いなくらい落ち着いていて、何事もなかったかのように飄々としている。
この二人は一体…
やっと抱きしめる腕を解いてくれた弘翔はそのまま広間全体を見て、私の腰を優しく抱き寄せた。
「もう説明はいらないな。俺の女だ。
文句のある奴はその首をかけて前に出ろ」
秋庭組に紹介してくれた時も、聖弥さんや遥輝さんに紹介してくれた時もこんな言い方はしなかった。
真面目な話をする時は敬語になる癖がある弘翔のこんな威圧的な言い方は初めて聞いた。
意図してそうしているのか、またしてもこの人が極道であることを実感させられる。
「春名に異論はない。今日の件に関しては後日改めて書面にて謝罪させていただく」
「フリーの秋庭組若頭のブランドは惜しいが…ま、しゃーない。ええな、野郎共」
「「「「承知」」」」
今までのやり取りを見てて思ったけど、西の人たちは柊さんを筆頭に統率力が凄い。
貫禄とか威厳もそうだけど…なんというか、みんな柊さんの人柄に惚れこんでいるって感じ。
豪快で大胆、言いたいことは口にするけど曲がったことは大嫌い。私が今まで関わってきた極道の誰とも違う、だけど心底慕われるような人。
あの蓮さんが親友だと認めている理由が何となくわかった気がする。