「大事な話し合いの場に私なんかが入って大丈夫なんですか…?」
隣を歩く蓮さんに意を決して訊ねれば、少し考えるような素振りをしてから蓮さんは口を開いた。
「まぁ、稜真があんなに怒っているのは珍しいので。先程の女性たちに殴られでもしましたか?」
「殴られてないです!殴られる前に柊さんが止めに入ってくれたので…」
というか…柊さん怒ってるの…?
全然そんな感じしないけど。今だって愉快そうに少し前を歩いてるし…
私が思っていることが分かったらしい蓮さんは小さく笑った。
蓮さんも弘翔も、人の思考を勝手に読むのやめてほしい…エスパー兄弟め…。
「曲がったことや道理に反することが一番嫌いですから、彼は」
眩しいものでも見るかのような表情で前を歩く柊さんを見つめる蓮さん。
普段ほとんど表情が変わらない人の優しい顔ってズルい。それが容姿の整った人なら尚更。
「言動は粗暴で、まともに正装もしないような男ですが…人の上に立つ器の持ち主ですよ。腐っても西の頭ですね」
蓮さんが誰かに対してこんなことを言うのも初めて聞いた。
柊さんのことを認めている…ような。
さっきの女性たちに言われたことには腹が立ったし怖かったけど、こんな珍しい蓮さんを見れたからちょっとだけ得した気分だ。
弘翔以外の誰に対しても等しく一線を引いている蓮さんの懐に入れる器量の持ち主である柊さんは人望も厚いんだろうな。
──蓮さんはそれ以上は口を開くことなく無言。
そのまま大広間に到着してしまったけど…どうなるのこれ。
中からはぼそぼそと話し声が聞こえてくる。
極秘事項を話し合っていると言われたけど、こんな所に私が入って大丈夫なのだろうか。
柊さんがいいって言ってるならいいのか。蓮さんもいるし。
「昌之さん」
襖を開ける前に畏まった声で蓮さんが昌さんを呼ぶ。
その声で中の会話がピタリと止んだ。
「芹沢です。柊の組長がお見えになりました」
「ん、入ってくれ」
昌さんが言い終わるのと同時に…勢いよく柊さんが襖を開けた。
それこそ、襖が歪んでしまうんじゃないかってくらいの勢いだ。
「待たせたな」
扇子で煽ぎながら豪快に言って、はだけた着物はそのままに、膝をついて頭を下げる各組の組長さんを横目に、上座に腰を据える昌さんと聖弥さんの所へと行ってしまった。
私は…この禍々しい雰囲気と怪訝な視線に圧倒されてその場に立ち尽くすことしかできなかった。