柊のトップが会合に参加していなかったのは本当に問題だったようで、自己紹介もほどほどに蓮さんと柊さんは踵を返そうとした。




私も楓さんの所に戻らないとなぁ…と思い、二人が立ち去るのを見送ろうとしたんだけど、






「そうや…おい蓮」






子供がいたずらを計画するような顔を浮かべて柊さんが足を止めた。





なんか嫌な予感…。






「この子、どうせ今日紹介するんやったら今一緒に連れってたらええやん」





「稜真、あなたは今そんなことを気にしている場合ではないでしょう」





「なんで蓮は僕にはそない厳しいんかな昔から。遅刻に関してはちゃんと謝るって」






蓮さんの肩に手を置いて軽快に笑い飛ばす柊さん。





一通り笑い飛ばしてから…一転して空気が変わる。口元は笑っているのに目が笑っていない。




顎髭を軽く撫でてから真面目な表情を蓮さんに向けた。







「一般人なんやろこの子。見せしめしといた方がええで」




殺されない為にもな






「…………。」





「…………。」





「…………。」







胸が跳ねる。




豪快で大胆な人の静かな言葉には重みがある。ましてやそれが極道の頂点に立つ人の言葉なら一段と迫力がある。





蓮さんも足を止めた。






「君が気にすることではないでしょう。秋庭の問題です」





「秋庭組若頭の女やろ。うちの同盟や傘下の野郎共が馬鹿な真似せえへんようにな、釘刺したいってのが本心」





それにな、





「僕は善人やないから初対面のこの子には思い入れなんてないが、弘は四年間も面倒見た可愛い弟分やからな」






「…………。」






蓮さんが押し黙る。
こんな風に蓮さんに話す人なんて弘翔以外にはいないと思っていたから不思議な感じだ。




勢いよく蓮さんの背中を叩いてから、『よっしゃ、行くでー』と一人で先に言ってしまった。




蓮さんを伺えば、見たこともない何とも言えない表情。




怒っているわけでも呆れているわけでもない、仕方ないな…って顔。





その顔が普通に友達に向けるような顔で、完璧で付け入る隙が無い蓮さんしか見たことがなかった私にとってはとても新鮮だ。






「では、我々も参りましょうか」





「は、はい…!」





どうやら柊さんの意見が採用されたらしい。





二人の話は正直よくわからなかったけど、どうやら私も会合の場に連れていかれるみたい。





楽しそうに扇子で煽ぎながら前を歩く柊さんを蓮さんと二人で追う。