今度は私が盛大に驚く番だ。
蓮さんに対して何言ってんだこの人…。
秋庭で蓮さんをこんな風に呼ぶ人を私は知らない。
しかも蓮さんは呼び方については何も言わず、私に視線を移した。
「弘翔から楓さんといると伺っていましたが…何故こんなところに?」
「それは…」
口籠ると、蓮さんは視線を私から女たちに移した。
「なるほど。理解致しました」
温度のない視線で射貫かれ、女たちは泣きながら膝をついた。
手をあげられそうになった私が言うのもあれだけど、少しだけ可哀想な気がしなくもない。
「館山、前田、松本、桑原組ですか…。秋庭組若頭の女に手を出したんですから、軽い処分で済むとは思わない方がよろしいかと」
それに私、重度のブラコンですので。
「「「「……………」」」」
「消えなさい」
震える足を引きずるようにして、涙で濡れた顔を隠すこともせず、四人は立ち去った。
秋庭で一番恐ろしい人はやはり女性にもその姿勢を崩すことはないらしい。
「相変わらずおっそろしいな蓮ちゃん」
「大事な会合に遅刻しておいて、こんな所で遊んでいる場合じゃないでしょう」
「道が渋滞してての遅刻やから不可抗力や」
「あなたの承諾がなければ可決されないことが多々あります。早く入りなさい」
「蓮に全権を委任しても構わんと何度も言っとるやろ」
「私は秋庭の人間です。いくら私と君の仲でも柊組総長の代わりなど恐れ多い」
「えっ…!?」
二人の会話に思わず口を挟んでしまった。
だって…今のが聞き間違いじゃなかったらこの人…
再び男性の視線が私に向く。そしてまたしても盛大に笑いだした。
「そうやったそうやった。僕この子に『君の名は!?』って聞かれとったわ」
いや、決してそんな聞き方はしていない。
愉快そうに豪快に笑っている男性を見て、蓮さんはため息を吐く。
蓮さんのこんな呆れたような表情は初めて見る。
「柊稜真(ひいらぎりょうま)。
こんなナリでも柊の総長やっとる。あぁ、こっちでは組長か」
んで、蓮の親友....かな
「親友かどうかは知りませんが、私の古い友人です」
蓮さんが小さく笑った…気がした。
こんなに砕けた空気を纏っている蓮さんは本当に珍しくて、というか見たことなくて、一人で勝手に驚愕。
着崩されてはだけた着物を纏う柊さんに対して、黒のスリーピーススーツで正装の蓮さん。
ガテン系、ワイルド系イケメンで豪快な柊さんに対して、端正な顔立ちで眉目秀麗、物静かな蓮さん。
対極な二人だけど本当に仲は良いらしく、二人の間には独特の空気が流れている。