恐ろしいくらい低い声で聞かれ、答えに窮する。



それに…楓さんが頭にきていた理由もなんとなく分かってしまった。



我が物顔で『弘翔さん』と呼ばれるのは思っていたよりも不快だ。




やめてほしいけど…言ったら殺されそう。





「弘翔さんに見染められるために私たちが今までどれだけ努力してきたかわかってるの!?」




泣き声混じりに金切り声を上げたのは桑原さん。



すでに号泣だ。




「貴女…見ない顔だけど、どこの組の人間よ!」




「いや…組、とかは…」




「あら、もしかして一般人?」




「…はい」




そこまで言えば、勝ち誇ったような笑みを浮かべた館山さん。



あ、桑原さんも泣き止んだ。





「遊ばれてるだけだと気付かずにこんな所までのこのこと来るなんて幸せな人ね」




「貴女みたいな一般の子、秋庭の若頭である弘翔さんが本気で相手にしてると思ってるの?」




「たくさんいる弘翔さんのセフレの一人のくせに調子に乗らないで!」




「遊びにしたって弘翔さんも女の趣味が悪いわね。でも彼、優しいから仕方ないか。断れなかったのね」




散々言って、楽しそうに笑う四人。



コレって切れてもいいのかな?
ダメだよね。
いや、いいか。




「私のことはなんて言ってもいいですけど、弘翔のことを馬鹿にするのはやめて下さい。彼はそんな不誠実な人じゃありません」




「はぁ!?」」




「遊びで私と付き合うような人じゃない。それに、毎晩私のこと離してくれないんだからセフレなんか作ってる暇ありません」




「なっ…!」




言葉に出してから冷静になった。


何を言ってるんだ私は…!


これじゃただの変態じゃないか…


あぁもう!どうにでもなれ!




「私、一般人だから組のことはよくわからないんですけど、皆さんは秋庭組若頭の下の名前を呼べるくらい偉い組の人なんですか?
今度、蓮さんにでも聞いてみようかな」




顔面蒼白とはこういうことを言うのだろうか?



私の知っている中で一番怖い人の名前を出しただけなんだけど…恐るべし蓮さん。そういえば今日は見かけてないな。





「あんた…!いい加減にしなさいよ…」




「調子に乗ってんじゃないわよ!」




前田さんに思い切りどつかれて体勢が崩れる。



あ、まずい。





「知ってる?ヤクザの手に掛かれば、一般人の一人や二人、簡単に存在を消せるのよ?」





「うちの若い衆に命じて風呂に堕としたって構わないのよ!!このアバズレ!」





「弘翔さんの耳に入る前に風呂で傷物にしてしまえば、二度と弘翔さんがあんたみたいな女に誑かされることもないわね」







顔を憤怒で真っ赤に染めた館山さんが私めがけて手を振り上げたので身構えたその時──






「なんや、井戸端会議にしてはえらい物騒な雰囲気やな」






聞き慣れた地元関西のイントネーションで、この場に似つかわしくないくらい呑気な声が辺りに広がった。