─ドウシテコウナッタ…。絶賛迷子なう。
何回か秋庭家には来たことがあるし、ちゃんとトイレの場所も把握していた。
それなのに…
「今回の会合は極秘性の高い話し合いが行われていますので…」
大広間に近い位置にあるトイレは使用禁止だと組員さんに止められてしまった。
本館横の離れにもう一つトイレがあるから会合中はそっちを使ってくれと言われたんだけど…。離れにたどり着けない…。
秋庭の屋敷は広すぎて迷宮みたいだ。
長すぎる廊下に、似たような襖の数々。今自分がどこにいるのかもよくわかってない…。
家で迷子って笑えない。
いや逆にちょっと笑えてきちゃったけど。
この際、お手洗いは別にいい。化粧を直そうかと思っただけだし。
ただ…ここがどこだか分からなくて調理場に戻れないのはマズい。笑い事じゃない。
「ねぇ、貴女」
「へ?」
廊下で右往左往していれば、凛とした声に呼び止められる。
声の主は…さっき楓さんに喧嘩を売って返り討ちに合っていた美人さん。館山さんだっけ?
よく見れば、後ろに他に三人いる。全員、着物の似合う可愛らしい人で腰が引ける。
「ちょっと話があるのよ。いいかしら?」
「え?あの…いや、でも…」
「新参者の分際で私たちのいう事が聞けないの?」
有無を言わさない圧力。
答えに迷っていれば…
「ここじゃ人目に付くわ。場所を変えましょ」
半ば強引に移動させられた。
連れてこられたのは本館裏の人通りがほとんどない裏庭。
横を見れば小さな建物があり、ここが離れだったのか…と考える。いやそんなこと考えてる場合じゃなかった。
絶賛迷子なうの次は、絶賛命の危機なう。
主導して私をここに連れてきたのは館山さん。
残りの三人は全員春名組傘下の組の娘さんらしい。右から、前田さん、松本さん、桑原さん、よし覚えた。
「あの…お話とは…?」
恐る恐る訊ねれば、鋭い目つきでキッと睨まれる。
桑原さんに至っては何故か涙を浮かべてるし。
「決まってるでしょ。弘翔さんと付き合ってるって本当なのかしら?」