「「「お待ちしてました」」」



厳つくて野太い声と共に黒塗りの車から聖弥さんが降りてくるのが見えた。



いつもよりしっかりとした和装に、綺麗に後ろに撫でつけられたオールバック。


ただでさえ貫禄が凄いのに、今日は年齢以上の風格と圧倒的な雰囲気。



プライベートの時とは纏う空気も容姿も違い過ぎて驚きを隠せない。




先に車を降りた聖弥さんは列を成す秋庭の組員さんたちには一瞥もくれず、車内に手を伸ばした。




「ありがと、聖弥さん」



いつもより落ち着いた声で聖弥さんの手を取って車から降りてきた楓さん。壊れ物を扱うかのような優しい手つきで聖弥さんが楓さんを抱きとめる。


うわー…すごい…


普段も大和撫子美人なのに…今日は一層、美しい。



聖弥さんに腰を抱かれて列の真ん中を歩いてくるけど…控えめに言っても恐ろしく絵になっている。高身長美男美女ってやはり恐れ多い…。




「お待ちしていました聖弥さん」




「あぁ」




「親父は広間で待っていますので」




「承知した」





短く言葉を交わした聖弥さんはそのまま…楓さんの額にキスを落とした。


その一連の流れがあまりにも自然で、映画のワンシーンを見ているかのような錯覚に陥る。




「じゃあ、また後でな。楓」




「もう、聖弥さん…人前ではしないでっていつも言ってるでしょ」



小さく口角を上げた聖弥さんはもう一度、楓さんの額にキスを落として本館に入って行った。



なんか…聖弥さんのイメージ変わりそう…



そんなことを思っていると横で弘翔が苦笑い交じりの溜息を吐いた。




「相変わらず、凄まじい牽制だな」




「聖弥さん過保護だからねー」



弘翔の言葉にあっさり答える楓さんはいつもの感じに戻っている。




「久しぶりね美紅ちゃん!」




「お久しぶりです楓さん」




「やっぱ美紅ちゃん可愛いわー!今日の着物も似合ってるよ!」




私の何倍も着物が似合う楓さんに言われても…。


思わず苦笑いが零れる。



「弘、あんたも早く行きなさい」




「わかってる。美紅のこと頼んだぞ」




「はーい」




「美紅、何かあったら携帯鳴らしてくれ」




「会談中でしょ?電話は遠慮しとくよ」




「いや構わない」




「私が構うの!」




うだうだ言う弘翔を何とか会合に行かせ、私と楓さんも場所を移すことにした。