いつもフランクな組員さんたちが今日は雰囲気が違う。初めて本家に来た日を思い出してしまうくらいの迫力と空気。
『美紅ちゃん』といつもは呼んでくれる弘翔よりも年上の組員さんも『美紅さん』と呼ぶし、敬語だ。
弘翔に対しても普段はみんな『弘』か『弘さん』なのに、今日は全員『若』と呼んで、恭しい敬語だ。車を降りてからは高巳も純さんも。
「弘翔…なんかみんないつもと違くない…?」
「ん?あぁ。今日はな」
「私…場違いじゃない?浮いてない??」
雰囲気に圧倒されて言葉が尻すぼみになる。
どちらかと言えば気が強い性格だし人見知りするタイプじゃないから大丈夫だと思ってたけど、この空気はさすがに緊張してしまう。
他の組の組員さんたちに頭を下げられている純さんを見れば、組内での純さんの地位の高さを思い知らされるし、いつもより無表情で指示を出す高巳を見れば、自分が場違いな気がしてならない。
それに…すれ違う人みんな『秋庭の若』と弘翔に深く頭を下げる。
基本、年上には敬語を使う弘翔が今日は誰にも敬語を使ってないし…。
「場違いでもないし浮いてもない。今は俺の横で堂々と立っててくれれば大丈夫だ」
そう言って笑う顔はいつも通り。
ちょっと安心する。
「若、お待ちしてました」
広すぎる本家の本館から出てきたのは土方さん。
着物も眼鏡も似合う相変わらずのイケオジだ。
「柊と春名の組長がまだ見えてません。その他の組の連中は全て広間に通してあります」
「そうか」
「柊も春名も幹部はすでに到着しているのでそろそろ来るかと…」
「わかった。聖弥さんが来たら俺もそっちに向かう」
「承知しました」
深々と頭を下げた土方さん。
やっぱり今日は土方さんも『弘』とは呼ばないらしい。
本当に緊張感が凄い。
「楓が来たら楓と一緒に居てくれ。さすがに会談の席には連れていけないからな」
「うん、わかった」
そんな会話をして、楓さんたちが来るのを待つ。
数分で辺りがざわざわとしてきたので何事かと思っていれば、正門が大きく開く。
「春名組長がお見えになりました」
弘翔に耳打ちして、そのまま組員さんたちは門前に列を成して頭を下げた。