揶揄ってくる高巳に対して純さんは無視を決め込んだらしい。



うん、安全運転の為にも賢明な判断だ。





「ま、痴話喧嘩は置いといて…、美紅ちゃん今日はホントに警戒しといた方がいいからね」




「どういうこと??」




「弘の女として紹介しても納得しない輩は意外といるんだよ」





真面目な口調だけど苦笑いも混じっている。



弘翔も『あー…』と口ごもってるし…。




「極道の女は強かだから」



今度は本気で真面目な口調。




「地位と権力の為には手段を選ばない…ってね」




何となく嫌な予感。変な汗が背中を伝う。


弘翔も今度は高巳を止めはしないけど、口を開かない。





「蓮さんの子ども妊娠したって自分の親父連れて本家に乗り込んできた女がいたり、うちの組長の愛人にしてくれって会談中の事務所に突撃した女もいたね。
あとは…自称、弘の彼女を名乗る女の子たちが宴会の席で喧嘩おっぱじめたこともあったかな」




待って待って待って…ヤバい…


女の人怖い。
あ、私も女だ。


たしかに秋庭の人たちはみんな優しいしカッコいいけど…。




「ヤバい系の話だと…」


今のも十分ヤバかったでしょ!




「聖弥さんに色目使った挙句、楓さんのこと刺そうとした奴がいたね。あぁ、あと椿さんの酒に毒盛ろうとした女もいたな…」




「だ、大丈夫だったんだよね!?」




「楓さんの件は聖弥さんが処理したし、椿さんのは蓮さんが気付いて対処したから問題ないよ」




想像してたよりも遥かに笑えない話の数々。



小さい声で『思い出すと反吐が出る』と零した弘翔。




「基本的には楓と一緒に居てくれれば大丈夫だ。何かあったらすぐに呼んでくれ」




「わかった…楓さんと居る…」




今まで誰とも付き合ったことのない弘翔が私のような一般人と付き合ってるなんて、反感買うのだろう。



公の場なので刺されたり毒盛られることはないと思うけど…警戒はしておこう。




笑えない話だったけど、注意してくれた高巳に少しだけ感謝。





「──弘さん、美紅さん、着きやした」




純さんの低い声と同時に車が停止する。




本家の門前にはいつもと違って黒いスーツに身を包んだ組員さんたちが一斉に頭を下げていた。