高校生になってから二週間。

相変わらずクラスのお友達は降谷君一人。
未だに他のクラスメイトと仲良くなれず時間ばかりが過ぎていく。
でも少し変わったというか大きな変化はこの一週間で一つだけあった・・

降谷君とその幼馴染の石川巧(いしかわ たくみ)くんと一緒にお昼ご飯を食べるようになった!今まで独りぼっちだった私にはすごく奇跡的な出来事だ。
石川君は降谷君と反対で第一印象はキツイ人なのかな?と思っていたが話すとキツイのではなくしっかりした人なんだという事に気づいた。なぜなら、相方の降谷君はやんちゃでそんな降谷君の面倒を見ているのが石川君。なんだか兄弟みたいで見ているだけで面白い。
降谷君のおかげで石川君とお友達になれた。
そして二人ともサッカー部に入部したらしい。
小学校からずっと一緒だった二人はサッカーもずっと一緒にやっていて、高校生になった今でもサッカーを続けていくらしい。

降谷君は本当に優しいひとだ。
降谷君が隣の席で本当に良かった。
そんな降谷君はいつの間にかみんなから人気者だ。
もちろん絶賛モテモテ中。
教室で降谷君と話していると周りから怖い視線を感じる。
正直・・たまに嫌な気持ちになるときもあるけど降谷君は人生で初めてできた友達。
ぜったにこの友情を壊したくない。
大切にしたい。

ーお昼休み

「春野さん!ごめん・・今日の昼休みサッカー部のミーティングがあってさ、一緒に食べれないけどだいじょうぶ?」

ほら・・本当に優しいひと。
いつも私を気にかけてくれる。

「大丈夫だよ。今日は図書室に行こうと思ってたから」

「それならよかった。じゃー部室いってくるね。また後で」

降谷君は教室を後にした。

「さーて、図書室にでもいこうかな」

正直・・降谷君がいないこの教室は窮屈だ。
なぜなら、まだ他に友達がいないから・・。

三階にある図書室に向かう途中・・

♪~♪~(ピアノの音)

「あれ・・?この曲・・」

私は、ピアノの音につられて図書室とは反対の方へ歩いていく・・
そして気が付いたらまた例教室の前に立っていた。

「やっぱり素敵な曲だ・・・すごく暖かい気持ちになる・・」

二週間ぶりに聞くこの心暖かくなる曲。
しばらく降谷君たちと一緒だったからすっかり忘れていた。

例教室の扉の窓をそっと覗いてみると・・

「こないだの・・先・・輩」

先輩の顔をみると、とても切なそうな顔をしていた。
その目には・・涙が流れていた。
我慢できず私は、扉を開く。

ーピアノの伴奏が止まる

先輩は私をじっとみて・・

「君は・・?」

「えーっと・・ご・・ごめんな・・さい・・」

「なぜ謝る・・?」

なんて馬鹿なことをしてしまったのだろう。
ただ外で曲を聴いているだけでよかったのに。
なぜ扉なんか開いてしまったのだろう。
泣いてる理由でも聞きたいのか・・?
そんなこと聞いてどうする?
私になにも出来るはずがない。
そもそも人と関わるのが苦手なのだから・・
頭の中から後悔ばかり溢れてくる。

「君は・・入学式の日の・・」

「は・・い」

「・・・なにかあった?」

彼はこちらに近づいてまっすぐ私をみている。

「な・・ないてた・・から・・」

「・・・そんなことない」

「そう・・でしたか・・ごめんなさい!!お邪魔してしまって。しっ・・失礼しまっ・・」

失態を犯した気持ちになりすごく恥ずかしくてその場を去ろうとする私に・・

「俺の曲、聞いてここに?」

私は素直に頷いた。

「・・どうして?」

言い訳を考えても思いつかない。

「曲・・すごく素敵な曲だったから・・暖かい気持ちになりました・・」

あれっ・・?
この感じ・・入学式の日にもあったような・・


ーしばらく沈黙状態

「そっか・・暖かい気持ちか・・」

彼は下を向き少し微笑みながら言った。

「本当にいい曲だと思いました。でも・・弾いてるときすごく切なそうな顔をしてて・・気になって思わず扉を開けてしまいました・・ごめんなさい」

「いいんだ。ありがとう」

「あっ・・あの・・これから図書室に用があるので失礼します。お邪魔してすみません・・」

私は急ぎ足で例の教室をでた。



‛‛「俺・・また見られたか・・」(先輩)’’






私は歩いてる途中にふと気が付いた。
ん・・?この気持ちは・・?
なぜかモヤモヤする。
これで終わりでいいのだろうか?
違う。終わりたくない。
言い忘れていたことが一つある。
私はまた例の教室に戻り扉を開けた。

「あのっ!!また・・ここにきてもいいですか・・?」

彼は驚いた表情でこちらをみる。

「また・・曲をききにきてもいいですか?」

彼は言葉を出さず、ゆっくりと頷いた。

「ありがとうございます・・先輩」

例の教室をあとにした。

なぜか笑みが止まらない。
なんだろう・・この嬉しさ。
あんな積極的な行動をした自分に一番驚いた。
自分から人に話しかけたの初めて・・


教室に戻ると・・

「春野さん!早めにミーティング終わったから探したのに見つかんなくて。図書室にもいなかったし・・」

そういえば私は図書室に向かうはずだったのだ。
さっきの出来事ばかり考えていてすっかり忘れていた。

「図書室行くのやめちゃった」

「そっか!じゃーまだ少し時間あるし教室ではなそうっか」

やっぱり周りの視線がいたいが・・今日はなぜか嫌な気持ちになっていない。
授業が始まっても頭のなかは例の教室のことでいっぱいだ。
授業の内容が頭に入らない。
窓の外をみると、三年生の体育の授業中。
そこには、ピアノの先輩もいた。

「あっ・・走ってる・・」

短距離走を走る先輩を目で追っている。
頑張ってと心の中で応援した。

気が付けば授業も終わり。

「春野さん、さっき窓の外みてたけどなんか面白いことあった?」

「えっ?なんでー?」

「春野さん、なんか嬉しそうだったから」

まさか降谷君に見られるなんて思ってもいなかった。
私としたことが・・とんだ失態だ。
同様を隠し切れなかった。

「そっ・・そんなことないよ!」

「そうなの??俺の見間違えか!ごめん」

謝る降谷君に胸がチクっとした。
降谷君・・ごめんなさい。

「俺これから部活だから気を付けて帰ってね!また明日」

「うん!また明日」

また明日・・この言葉は魔法の言葉。
私は一人じゃないと思わせてくれる。
また明日学校にくれば降谷君がいる。石川君もいる。
だから学校にきても一人じゃない。

「そういえば・・あの先輩まだいるかな?」

ふと先輩を思い出し例の教室に向かっていた。
残念ながら何も聞こえてこない。

「だれもいないのかな・・?」

私はそっと中に入った。

昼間は緊張してあたりを見渡せなかったが一人の今、この教室を見渡すと・・
そこにあったのはピアノとピアノの椅子、机が一つ・・そして椅子が一つ。
それ以外はなに一つない。

黒板をみて知ったのは、ここは元音楽室だったこと。
ここは狭いため、二階の左の一番奥の部屋に移ったらしい。

「誰も使わないからお昼休みはここにいるんだ・・」

私はピアノの椅子に座った。

ード・レ・ミ・ファ・ソ~♪(ピアノを弾いてみる)

私はこれしか弾けない。
ピアノの椅子に座ったまま、なぜ先輩が涙を流していたのかを考えた。
先輩が弾いていた曲が頭の中に流れてくる・・
先輩は私に泣いてることを隠していた。
でもあれは見間違えじゃない。
入学式のあの日もここで先輩は・・・

ーポロポロ(涙が落ちる)

「あれっ・・?私、なんで・・?」

急に胸が締め付けられるような気持になり、悲しくなった。
先輩が泣いてた理由はわからない。
でもきっと辛いことあったんだ・・。
あの素敵な曲は思い出のある曲なのかな・・?

「なんで私が泣いてるんだろう・・・」

この気持ちの意味がまだ私にはわからなかった。
暖かくなる気持ち・・切なくなる気持ち・・
今までに感じたことのない気持ちだ。




ただ一つだけわかったことは・・
とにかく先輩が気になってしかたがない。