「笹原さん、詩羽ちゃん失恋しちゃったって。」



「失恋?あの理央くんだっけ?
 あーんなイケメン詩羽にはむりむり。無謀よ、無謀。」



「うるさいなあ!」



「はいはい、せっかく来たなら手伝って。
 今忙しいのよ。これ、5階の風見さんの所持っていってちょうだい。」



せっかく失恋の痛みを癒しに来たのに……。
雑用に使うとかお母さん酷過ぎ。
看護師のおばちゃんたちは優しかったのに。
ふーんだ、いいもん。


受け取った袋を持ってエレベーターに乗り込む。
風見さんって。なんか爽やかな名字だなあ。
どんな人だろ。
まあお母さんが頼むってことは癖のある人じゃないんだろうけど。


それにしても5階とか来たことないや。
まあいつもロビーで雑談するとかそれくらいだし。
雑用も書類の整理とか手伝わされるくらいだし。
誰かに何かを届けるなんて初めてだ。


病室の前に立つと、そこは個人部屋で。
名前の欄には“風見爽太”
そう書かれていた。
下の名前まで爽やか!!


こんこん、と2回ノックすると。
どうぞ、と少し高めの声が聞こえてきた。


ゆっくりとドアを開いて足を進める。