「岩木。
斉藤と会うのは明日ではなかったか?」
障子が開けられ、
土方先生が私を中に招いてくださる。
「申し訳ございません。
仰る通り、明日会う段取りでございましたが、斉藤殿が火急の用との事で、私を呼びました。」
「・・・フッ。
相変わらずその耳は衰えていないか。」
私は、行き交う者全ての声を聞き分けることができる。
一度覚えた声は二度と忘れない。
夕刻前、影は影としてこの身を潜めていた時、斉藤殿が小さな声で私を呼んだ。
御陵衛士の屯所を抜け出し、
商人が多く行き交う街の真ん中で。
危険は承知でいつもの様に薬の行商人として接触を図り、
土方先生への密書を受け取った。