彼女は茜といった。

秋に生まれたから茜なんです、と彼女は笑った。単純な親ですよね、と。

茜は、私より一つ年上だった。

けれど、私と同じ二年生の学年カラーの青いラインが入った上履きを履いている。

何か事情があるのだろうと察した。

私はあえて聞かなかった。

「チハルさんには、何かあるんですか?」

茜は私としゃべる時も手を止めない。ひたすらにデッサンを続ける。

名前はよくわからないけど、粘土みたいなもので時折キャンパスを擦る以外は、常に木炭を滑らせていた。

「何かって?」

「名前の由来です。」

くすくすとおかしそうに笑った。

聞こえるか聞こえないかくらいの微かな音だった。

つられて私も、ああ由来ね、と笑った。

「多分ないよ。てゆーかよくわかんない。親も話さないし、聞こうと思ったこともない。」

「そうなんですか。今度聞いてみてください。そして私に教えてください。」

茜の言葉に、ああ、次があるんだ、と内心で笑った。

そんな自分を少し浅ましく感じた。

「う~ん。親とはあんまり話したくないから。」

「だめです。家族とは仲良くしなきゃだめです。」

茜は初めてキャンパスから目を離し、私に向かって顔をしかめて見せた。

(人形みたいだ。)

そんな状況でも、私は茜の端正な顔を観察していた。