翼くんは、クラスの中心にいて人気者。
毎日彼はいつもニコニコ笑っている。
同じクラスやサッカー部の男子たちが悪ふざけするのを見て、「バカだなー」と笑う。
だけど、そんな彼がふと寂しそうな顔をする時がある。
去年の秋ごろ、その日は部活休みで練習が無くて、教室に誰もいない放課後。
忘れ物をした私は走って教室に戻ると、ベランダに1人でグラウンドを見つめている翼くんがいた。
その背中がとても寂しそうで、切なそうで……。
思わずベランダへ出て、彼の背中に触れてしまった。
「翼くん…?」
「…あ、つばさ」
私に気付いた翼くんは、ニコッと笑った。
いつもと変わらない笑顔に見えたけど、その笑顔の裏にはきっと何か抱えているんじゃないかなって、あの時思った。
彼がみんなの前で笑顔でいる理由───
その理由やたまに寂しそうな顔をする理由も、1年経った今でも分からない。
だけど、いつか翼くんの力になれたらいいな、なんて無力ながらに思ってしまうんだ。