佳苗は、鼻唄を歌いながら掃除機をかけていた。

キレイ好きの佳苗は暇さえあれば掃除をしている。

――ふと、一週間前のことを思い出す。

「減給処分をくらってしまった・・」

夫の言葉が頭の中をグルグル回る。

月に5万円も少なくなるなんて、どうしよう・・・。

佳苗はため息をついた。

――あの人と結婚して、もう20年か。

時々考えてしまう。

本当によかったのか?

もっと違う人生があったのでは?

その度に、

「たとえ、他の人生があったとしても時を戻す事は出来ないんだから」

と、自分に言い聞かす。

「――私も働きに出ようか」

佳苗は机の上にある広告に手を伸ばした。

「スーパーのレジ打ちかぁ」

これなら私にも出来るかしら?

陽子が生まれてからずっと働いてないから、不安だわ・・。

――少しの間悩んでいた佳苗だが、

「・・迷っても仕方ない、電話だけでもかけてみよう」

と、受話器を手に取った。