「おじさま」


――男は、それが自分にかけられた言葉とは思いもしなかった。

男が考えていたのは家で待つ妻の事。グチグチと口煩い3つ年上の妻。

今日、男は仕事でヘマをして、3ヶ月の減給処分をくらってしまった。

それを妻に言えば、またグチグチとイヤミを言われるのは分かり切っている。

一旦は帰路についたものの、その足は重い。


――その途中に見付けたのが、今いるバーだった。


「おじさま、隣いいかしら?」

再び声がして、男は初めて顔を上げた。


――ゴクリ。


思わずツバを呑み込む。

そこに立っていたのは、男には全く無縁の美女だった。

「ど、・・どうぞ」

男はかすれた声で応えた。
「ありがとう」

女は微笑んで、隣に座った。