「...美和」
名前を呼ぶと、彼女は目に涙を浮かべながら俺を見上げてきた。
その頬にそっと手を添え、吸い寄せられるようにゆっくりと顔を近づける。
いつかこんな時が来たら、きっと俺は緊張するだろうと思っていた。
だけど今は何も感じないし、聞こえない。
自分の心臓の音すら、聞こえない。
無音の時間の中で、美和の顔だけが見える。
あと5センチ、4センチ、3センチ......
「す、ストップ!!」
「むぐ!?」
唇に感じる柔らかい何か。
でもそれは唇じゃない。
美和の両手だった。
そして、目の前にあるのは、真っ赤な顔で怒った美和の顔。