「だからなの? だから追いかけなかったの?」


「うん♪」


またしても悪魔の微笑みが向けられる。



「あの、離してください」


「ダメだよ、また逃げるでしょ?」


「………」


それは、捕まえようとするからで。


しょうがないじゃない、嫌なんだから。



葉月くんには分かりっこない。


「葉月くんは慣れてるんでしょ、どうせ」


「はっ?」


「昨日した事なんて…白石さんと慣れてるでしょ」



「それは、まあそうだろうけど」


否定しない。


当たり前の事だ。


けど、私はそういうの。


「私は慣れていないんだもん。そもそも男の子と関わり持った事ないから分かんないよ。だから、そういう事を急にされても困るよ」



嘆くかのように小さく放ち、顔を俯かせる。


「……ごめん、そうだよね」


「!」


私の気持ちを組んだのか、葉月くんは申し訳なさそうにする。


「………」


葉月くんの心が分からないから余計に心苦しい。


「確かに俺は慣れてるよ。でも、基本的に架菜からだから…ほとんどが。だからその、自分からする事ってあんまりないから。でも…言い訳になるよな」


「………」


(あっ)


葉月くんはそっと私から離れて、少し間を開ける。


離してくれたのに、なぜか私は扉を開けて出ていくという気持ちにならなかった。


「もう、正直に言った方がいいよな。こんな周りくどいやり方なんてめんどいだけだし」


「………」


(まわりくどい?)


葉月くんは一体 何を言おうとしているのだろうか。