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私の名前は、小野寺 理子(おのでら りこ)。現在、24歳、今年、25歳になる。大学を卒業して、今年の3月に2年間働いていた会社を辞め、現在は無職だ。ありたいていに言えば、ニートだ。自ら辞める道を選んだ、ニートだ。


これは、毎日なんとなく日々を送り、目標もなければ、目的もない。会社を辞めてから半年、生きがいもなく、ただ無感動に過ごしていた頃、思いがけず起きた奇跡のような日々を綴った私の物語。



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10月15日。


暑い日差しもだいぶなりをひそめ、秋らしいカラッとした日が続く今日この頃。私は、自宅の7階のマンションの自室で目を覚ました。


「…んっ…」



開けっ放しにしたままにしてしまっていた窓の外から、小鳥のさえずる音が聞こえる。窓から入ってくる日差しも眩しい。どうやら、今日もいい天気なようだ。


窓から入ってくる太陽の光の眩しさに目を細めていると、パンの焼けるいい匂いと、コーヒーのほろ苦い香りが、キッチンの方から漂ってきた。一人暮らしをしているマンション。当然、いるとすれば、家族の誰かだ。母さんでも、来ているんだろうか?と未だはっきりしない頭で考えてみる。うつぶせになって寝ていたせいで、少々苦しい。


仰向けになり、ぼんやりと天井を見上げれば、次第も視野がはっきりとしてきた。


「ふ~…」


大きく息を吐いて、ベットを出ようと体を起こす。ぐぐーと、体を伸ばす。
時計の針を見れば、すでに、10時52分を指して、もうほぼ11時だ。

「…やばい」


肩まで伸びた髪を上に掻き揚げて思わず独り言ちる。母が来ているとなれば、この時間で起きていない時点で、小言の一つや二つ言われる。


「はぁ…」


覚悟を決めて、とりあえずは、パジャマを脱がなければ。いつまで、その恰好でいるのだとまた小言が増えてしまう。とりあえず、クローゼットを開いて、秋らしいオレンジのニットと白いパンツに履き替えた。申し訳程度に、髪をとかす。化粧は、いいだろう。母だし。そう思って、寝室の扉を開いた。



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私が住んでいる部屋は、1LDK。最寄りの駅から遠く、交通の便が悪いということもあり、この間取りで、4万円という格安物件で、貯金を切り崩しながら、どうにか生活をすることができている。寝室のすぐ隣にリビングがあり、キッチンが隣接している。ドアノブに手をかけようとすると、キッチンで何やら音が聞こえている。ちょうど、沸騰したのか、ケトルの音が聞こえる。間違いない。母だ。うちで料理をするのは。そんなことを思って、ドアノブをひねり、キッチンに立っている人物に声をかける。


「来るなら、連絡し…」


そう言いかけて、思わず立ち止まった。キッチンに立っているのは、母だろうと思っていたが、母なんかより、はるかに高い身長。腕まくりした白シャツからのぞく筋肉は、女性のものじゃない。むしろ、母は、贅肉がついてきている。いや、そんなことは、どうでもいい。そんな些末なことはどうでもいい。


「…誰?」


思わずたじろいて、後ろに一歩下がる。


一つ、自分自身の発見。驚くと大声出せない。急に、頭が混乱すると行動できない。まるで、他人事のように分析する。


物音に気付いたのか、彼はゆっくりと振り向く。


「おはよう。マスター」


そして、すぐに人懐っこい笑みを浮かべる。柔らかそうな少し長めの甘栗色。瞳は、プルートパーズのように澄み切った蒼。どこかで、見た気がする…。でも、いったいどこで…?人懐っこい笑みと甘栗色の髪色のせいか、犬を連想させた。こう、大きめの大型犬。とりあえず、襲ってくる様子もない。人懐っこい犬を連想してしまったせいか、もしくは、彼から発せられる人畜無害臭か、警戒を一瞬で解いてしまった。そして、彼が発する言葉の中で気になるワードがあり、彼におそるおそる尋ねる。


「…マスターって、もしかして私のこと?」
「そうだよ?もしかして、忘れた?」

すると、彼はきょとんと不思議そうな顔をする。きょとんとしたいのは、こっちの方だよと突っ込みたいのを一旦飲み込む。


ちょっと待て、え?どういうことだ?いったん、整理しよう。
今は…、11時23分。なるほど、道理でおなかがすいた…じゃなくて!
朝、目が覚めて、いい匂いがするな~なんて思いながら、着替えたわけで…。その原因は、母だろうと思って、遅い起床に、苦言の一つや二つあること覚悟して、リビングに足を踏み入れた。けれども、そこにいたのは、甘栗色の髪と碧眼の青年で…。一瞬、泥棒かと思ったけれど、私を見て、驚くこともなければ、当たり前のように、おはようと来た。そもそも、泥棒に入った家で、料理をする泥棒がどこにいる?あれ?もしかして、昨日、私が、招き入れちゃった?え?どういうこと?いや、ちょっと、よくわからなくなってきた。


「あ、もしかして、敬語の方がよかった?」
「いや、そうじゃなくて…」
「俺、敬語苦手なんだよね…じゃなかった…。苦手なんですよね…」


正直、頭の中がパンクしそうなのだが…。


「敬語は、いい」
「え!?いいの!?」


言えたのは、そんなこと。なんだろう。尻尾が見えるような気がする。


「うん、見たところ同い年くらいだろうし…」


ちょっと、冷静になってきた。とりあえず、わかったのは、彼は、私に危害を加える気はないことは、わかった。



「同い年…か。俺、たぶん、マスターより、100年以上長く存在しているよ」
「え…?」


一瞬、冷静になったにもつかの間、彼は、また謎を増やしてきた。
困ったように笑う彼は、どう考えても100年も生きているように見えない。


「それは、どういう…」


私を見つめる澄んだブルートパーズの瞳を見て、ふと思い出す。柔らかそうな亜麻色の髪。空色の瞳。
見たことあるはずだ…。だって、私は、昨日、“ソレ”を手に取って、持ち帰ったのだから。


「よかった…、思い出してもらえたみたいだね…」
「え…、でも、どうして…」


私の様子を見て、安堵したように笑う。


「だって、俺は、“同居ドール”だからね」



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これは、毎日なんとなく日々を送り、目標もなければ、目的もない。会社を辞めてから半年、生きがいもなく、ただ無感動に過ごしていた頃、思いがけず起こった奇跡のような日々を綴った私の物語。


つまりは、私と同居ドールの“彼”との日々を綴った物語だ。