「は?ちげーよ。ここがこうだから……」
数学と格闘しています。
「え、なんでなんで?こっちはこうなってるよ?」
訳がわからない。
自分が何の単元してるのかも理解してないし。
「違う。シャーペン貸せ」
と、私が手に持ってるシャーペンを奪う性悪。
その時に手が触れた。
ドクンっと心臓が大きく波打つ。
「さっき教えた公式言ってみろ」
ドキドキしてる…。
どうしよう。
私、ホントに性悪に恋してる………。
「おい。聞いてんのか」
「えっ?」
あー、ダメだ。
性悪との距離が近すぎて集中できない。
この前までは恋という自覚がなかったから気にしなかったけど……。
「お前、今日おかしいぞ。頭大丈夫か?」
顔を覗きこまれる。
「だっ大丈夫」
顔が赤くなるのが嫌なくらい分かる。
「熱?」
そう言いながら、性悪の手が私のおでこに触れた。
ドドドドドドっ
心臓が破裂しそう。
ヤバい……。
「だっだっ大丈夫っ!!ぜんっぜんっっ元気ハツラツだから!!」
性悪から離れようと、勢いよく立ち上がる。
「俺が座ってんのにお前が立つからパンツ丸見え」
っ!?
スカート穿いてるんだった!!
うわーん!
大失態だー!!
嫌になって性悪から離れた部屋のすみに座る。
「………。頭、大丈夫?」
呆れられてる……?
大失態だ…。
大後悔……。
「ご、ごめんごめん。そろそろ15分経ったんじゃない?仕事いってらっしゃーい!!!」
「ここ俺の部屋だから。お前が出ていけ。着替える」
~~っ!
冷静に返されたらこっちが恥ずかしいじゃん!!
「ご、ごめん!!」
「夏祭り……か」
そう呟いてスマホに視線を移す。
沙羅が【翼くん誘いなよ】というメールに添付してく?たチラシがそこには映ってる。
〝1発だけ打ち上げられるハート型の花火を見たカップルは幸せになれる!?〟
そんな宣伝文句がデカデカと書いてある。
今年からこの辺りで開催されることになったら夏祭りらしい。
「どーしよ…」
夏休みもあと1週間強。
夏休みが明けたら学校が始まるから、今みたいに性悪と顔を合わせる時間が更に短くなるかもしれない。
誘ってみよっかなぁ……。
嫌かなぁ…夏祭りなんか……。
暑いし人混みだし…。
性悪は今も仕事だ。
だから一人で悶々と悩んでる。
「はぁぁ…」
誘う勇気もないし……。
けど行ってみたいし…。
誘っても〝行くわけねーだろ〟ってバッサリ言われたら傷つくもん……。
あーどうしよう…。
【誘う勇気がない】
とりあえず沙羅にSOSを送る。
【何弱気になってるの。大丈夫だって!勇気出して!】
うー…。
どうしようどうしよう……。
【誘わなかったら絶対後悔するよ?やればよかったっていう後悔は一番良くないからね~】
だよね…。
ダメ元で誘おっかな……。
でもなぁ……。
【やっぱり勇気が……】
【ウジウジしてるのは乃愛らしくないよ。頑張って!!】
私らしくない…か。
私、恋してることに気づいてから消極的になったよね。
やだなぁ。
完全に恋する乙女じゃん。
【頑張る……】
**
そんな日に限って性悪の帰宅は早い。
「あ…あのさぁ……」
晩ごはんを作りながらさりげなぁく性悪に話しかける。
「ん?」
今日は珍しくスーツだ。
ネクタイをほどいて外す仕草が色っぽくてカッコいい……。
…って、何考えてるの!?私!
変態っ!!
「……何?」
一人で勝手に赤面してるわたしを横目にスーツを脱ぐ性悪。
Yシャツの第一ボタンも開ける。
その全ての動きにドキドキしてしまう。
「あっ…あのですね……」
尋常じゃないくらい緊張する。
断られたらどうしよう…。
「夏……」
深呼吸しないと息が持たない。
「夏?」
「夏…休みももうすぐで終わるねー!」
言…言えなかった。
誘えなかった。
「は?だから何?」
「……あ…いや……。そのぉ…。きょ、今日はスーツ何だね!」
何言ってんだ、私。
「あぁ。社長と会う用事があったから」
「そ、そうなんだ……」
誘え誘え…頑張れ私……。
「あのぉ~…」
「今度は何だよ」
勇気出さなきゃ。
告白じゃないんだから。
「夏……夏バテしてない!?大丈夫!?」
あぁ。
ダメだ。
誘えない。
「してないけど。何、お前。さっきから」
不審者を見るような目で私を見てくる性悪。
「いや、あの…違うの。私は不審者じゃなくて……」
「は?不審者?何言ってんのお前。幻覚でも見てんじゃねーの。クスリでもやった?」
ダメだ。
誘いたいのに誘えない。
「やってないよ…大丈夫……」
頑張れ、乃愛!
「あの…さ……」
「だから何だよ」
だんだん性悪もイライラしてきてる…。
次しかチャンスが……。
って
「あーーーーーーーー!!!コロッケ焦げたぁぁ!!」
性悪に気をとられてたらコロッケが真っ黒!!