戸波さんがそんなん言うから、もうズブズブになってしまうわ。
次会ったとき、もう頭冷えとって、やっぱあんな修羅場やらかすような女は面倒やしやめとくわてなっても、
すぐああそうですかわかりましたさようなら、なんてもう言えへんよ。
こないだまでなら言えたと思うけど。
今日のこんなんなってんのは自分のせいやけど、それでも戸波さんが優しくするからもうあなたのタイミングでスッパリさよならなんてもうできひんもん。
ますます好きになってもうて、離れられる気がせんの。ズブズブやわ。ごめんもうどうしたらええんかわからへん。
言えば言うほど涙が止まらんくなった。
戸波さんはもーー泣かんとって、、と笑いながらわたしを抱き締めて、すごい勢いで頭をわしゃわしゃ撫でた。
ズブズブでいいから。もういいよ。最初はどないしよ思ってたけど、俺やってお前のこと好きやもん。
ほんまに好き。大好き。やからもうズブズブでいいよ。
戸波さんの口からそれが聞きたかった。
好きとか大好きとか、そんなん態度見てたらわかる、行動みてたらわかるて思っても、
実際問題頭と心は違うもので、どうしても言葉にされないと信じられない。
1回言われてもまた次の瞬間、今はもう冷めているんじゃないか、さっきの「好き」やって、わたしが無理矢理そう言わなあかん雰囲気作って無理に言わせたんちゃん?とか思ってしまってひとりで焦ったり。
アホやなあほんまに、と思っても気持ちをいつだって確かめたい。
戸波さんの腕の中にいて、頬ずりされたり、キスされたりしている時以外はいつだって好きじゃないかもしれない、そんな不安が頭を覆う。
とりわけ、週末は奥さんと二日間過ごすわけやから。
わたしのことなんて忘れてお楽しみかもしらん。
奥さんが優しくて、見直して、罪悪感に駆られてもう月曜日からはすっぱりやめようとかいう気持ちになってるかもしらん。
そうやったらどないして判断したらいい?
不倫なんやから勝手に冷められて捨てられるのが行き着く先なんは分かってるけど、いつくるか、意外に早いんじゃないか、それは明日かもしらんとか思うと胸が張り裂けそうなの。
そんなことを考えては、言うわけにもいかず、戸波さんの腕の中でしきりに泣いた。
午前中のことでかなり動揺して情緒不安定やった節はあると思ったけど、それにしても生理前かと疑うくらいに涙腺が緩かった。
はじめて自由にいちゃいちゃ出来る日やというのに、
ただひたすらに戸波さんの胸に顔を埋めては泣き、ちょっとだけ見上げては戸波さんの微笑みに安心し、撫でてもらってキスをして……というのを繰り返した。
わたしが戸波さんの目をのぞき込むたびに、戸波さんは、子供をあやすように頭をわしゃわしゃして、同じようにわたしの目をのぞき込み、これ以上ない優しさをたたえた笑みを向けた。
大丈夫やから。
リリカなら大丈夫やから心配するな。
ほんまにいい子やし、賢いし、
多分自分が思ってるより強いから。
そのままのリリカでおってくれたら、絶対きらいになんてならへんし、飽きひんよ。
それに、ひどい捨て方とか絶対せえへんし、嫁がおって申し訳ないけど遊びちゃうつもりでおって、大好きやから。
ごめんやけど。不安にさせてごめんやけど、好き。ほんまに好き。
戸波さんに痛いくらい抱き締められて、満足した自分がいた。悪いヤツだと心底思った。
あなたが罪悪感を抱かなければいい。
奥さんがいい奥さんになろうとかいう変な向上心をもったりしないままでいればいい。
あなたが愛してくれるなら、あなたの地位と、社会的立場と、家庭を守るためにわたしも全力を尽くすから。
めんどくさいこと言ってごめんね、ありがと。
わたしも好き。大好き。
戸波さんが好き。
キスをせがむと、戸波さんは目を細めて微笑んだ。
そのままわたしの手に自分の手を絡ませ、そっと頭を支えながらわたしを押し倒すと、激しいディープキスをしてきた。