戸波さんに抱かれる。
その腕に包まれて、戸波さんのものにされる。
経験少ななわたしには言葉通りこんなの初めて、なことだらけだった。
そんなんしたことない。
なにそれ、すっごい気持ちいい。
そう悲鳴をあげるたびに戸波さんはガンガン突いて、
そんなガキみたいなセックスしかしてこんかったん?俺が色々教えたるから、そう言った。
戸波さんはいい匂いがして、抱きつき心地が良かった。
いつも威嚇してると自称してる戸波さんがちょっと余裕の無さそうな顔をしてわたしを見下ろしている様がなんだか切なかった。
弱そうな犬みたいなかわいい顔をしてわたしを抱き締め、細すぎひん?折れそう。とか言いながらわたしの髪に鼻を押し当てたり、指先で弄んだりした。
髪の毛を触られるのにも弱いから、戸波さんの吐息が耳や頭皮に当たるたびにぴくぴくと身体を動かしていた。
戸波さんは婚約者みたいに、執拗でいやらしいセックスをしない。
わたしをイカせ続けることにだけ喜びを感じて自分は絶対にイカない婚約者とは違う。
前戯も手つきも優しかったのに、臆病なだけじゃなくて抱く時はちょっとだけ荒々しく唇を奪ったりするのがドキドキした。
しかし、お互い雑念があったせいで、戸波さんのモノは萎えがちやったし、わたしも全然集中できひんかった。
やからちょっとだけセックスをして、萎えればおとなしく抜いてピロートーク?をしていた。
今までは、セックスすればわたしが気絶するまでイかされて終わりを迎えるか、擦られ過ぎて下が痛くてギブアップするまで辞めないから、ピロートークなんてしてる余裕なかったし、
そもそも疲れ果てたはなからにこにこ談笑なんて出来るわけないから速攻寝るみたいな感じやった。
やからわたしが起きていて、話をしているなんてめったに無いことやったし、いくら付き合いたてと言えども多少なりともセックスした後に話したい、いちゃいちゃしてたいと思うことなんて初めてやった。
戸波さんとはセックスの相性が良くないことを望んでいた。
セックスして、独りよがりでつまんないか、無理矢理で痛いことするタイプやったらガッカリ出来たし、ああ体目当てなんだなって思えたやろうから、期待しなくて済んだのに。
やのにあれだけ優しい眼差しで見つめられて、ここが好きなん。ここも感じるん?綺麗な曲線やね、とか言いながら舌を這わされて、もっと欲しくなってしまった。
ここも感じてしまうんや。かわいいね。
ここより、こっちの方が好きみたいやね。しかも、こういう感じに舐めると感じるんちゃうん?
戸波さんは顔に似合わず甘えたなんやと自称してきた。好きな人にだけやから。と前置きをつけて。
わたしを撫で回したりキスをしたり、いつになくベタベタして、愛撫するときも片手を絡ませたまま絶対に離そうとせんかった。
午前にあったことのせいでお互い調子が上がらんかったから、相性がいいか悪いかはまだ分からんかったけど、それでももっとこうしていたいと強く思ってしまった。
奥さんとは結婚したらすぐレスになった言うてたけど、ほんとかな。
まだ戸波さんは結婚して1年とかやのに、ほんまにわたしを好きになるとかあるんかな。
バカなわたしは婚約者の問題を抱えているにも関わらず、さらに面倒なことに頭を悩ませていた。
聞けないや。
だって本当に欲しいわけじゃない。
戸波さんの妻の座が欲しいなんて微塵も思わない。それはほんまのことで。
いつか飽きる。いつかはきっとわたしは飽きてしまうから、
そうなったときに切っても切れん縁を構築してしまっているが故にいつしかの甘い日々を思い出してガッカリとかしたくない。
なにより人のを奪って人並みの幸せなんて得られない。
略奪するスリルは刺激的かもしらんけど、離婚とか、メンタルの部分とかで生まれる計り知れない面倒事が、わたしへの不満へと変わるのなんて容易に想像がつく。
やけど、奥さんとわたしどっちが好き?
とか考えてしまう。
奥さんは、家族として好きやし大事。
生活するパートナーとして、愛してる、はず。
わたしには恋してくれている。
恋人として、大事。
そうであるはずやのに。
ききたくなって、答えが欲しくて、
頭が悪いから戸波さんの胸の中で涙をこぼした。