郊外のラブホに足を踏み入れる。
メールせなあかんねん。
ほんまにね、さっきも電話かかってきよったやろ?メールするんやもん。
大人なはずの戸波さんがそう何度も言い訳のように繰り返していた。
部屋に入ると、ほんまにPCを開いて電話をし、カタカタし始めたのでわたしは大人しく離れたところでスマホを弄ったり、トイレに行ったりしていた。
ものの10分もすると、PCを閉じて戸波さんが抱きついてきた。
ベッドに倒れ込むわたし。
きゃあきゃあ言いながら、キスをした。
戸波さんに教えられた大人なキス。
軟口蓋や歯茎を下でなぞられて、口の中を犯されるかのような激しい舌の絡みがあるキス。
貪るように戸波さんが上からわたしに覆い被さって、抱き締めてきた。
泣きそうになりながら、キスに溺れた。
戸波さんとのキスは、苦い。
喫煙者とキスをしたことが無かったから知らんだけで、喫煙者には当たり前のことなのかも知れないけど。
肺の奥からたまに苦みばしった熱い息が湧き上がってくる。
むせ返りそうになるくらいセンセーショナルな味がする。
お子様なわたしの唾液腺は、慣れない味にいちいち反応しながら活動を続ける。
肺の奥は苦いのに、何なら口の中だってほんまに苦いのに、唾液はいつだって甘い。
苦いから甘く感じるのか、ほんまに甘いのかわからんけど、湧き出る唾液が甘い。
戸波さんはあまり唾液が出んタイプみたいやけど、それも甘い。
唾液を飲み干すのは、戸波さん。
わたしは湧き水のように唾液をだらだらと出し続けて、口の中が溶けそうになる。
唾液がよく出る人は、虫歯になりにくいとは言うけれど。
昔からわたしは唾液がよく出る質で、居眠りをすれば涎がとめどなく流れ、あくびをすれば口の端から涎が溢れそうになるくらいだった。
トロッとした唾液が口の中に溢れると、何故か蜜を飲んでいるかのような謎の気持ち良さがある。
もちろん自分で勝手に出た唾液ではそんなんならへんけど、キスとかで出た唾液やと格別。
はちみつで満たされた壺に舌を突っ込んでるかのような甘さ。
それを引き立てる戸波さんの苦さ。
さらにそれに加えて、戸波さんが色々なところを攻める。
首筋。左側の顔周りの髪の毛の毛先。耳。耳たぶ裏。鎖骨。うなじ。
恥ずかしいことに、すごく色々な所が感じるから、戸波の目線がチラついたり手が動いたりするたびにぴくぴくと無意識に反応していた。
あんなことがあったのに、胸がドキドキしてどうしようも無かった。
戸波さんに抱かれたい。
戸波さんのものにしてよ、そう強く思えば思うほど下腹がキュンとなり、唾液が溢れた。
戸波さんはいつになく湧き出る唾液を上手いこと啜りながら、少しずつ前戯を進めていった。
キスに沢山の時間を掛けたり、ゆっくりと前戯をしてもらうのは初めてのことだった。
大切にされている感じがして、切なくなった。