ヒロは掴んでいた私の顎を、今度は振り払うように離した。その勢いで、私はバランスを崩し、後ろに倒れてしまう。尻もちをつくと、ヒロは一歩踏み出し、覆いかぶさるように私を上から見据えた。




「店のナンバーワンなんかじゃねえよ。ホスト界のナンバーワンだ」




 ――――圧倒的な野望。


「その為なら俺は何でもやるぜ。誰だろうと、邪魔な奴はぶっ潰す! 一人残らずな!」


 ヒロの身体から溢れるのは、ただのNO.1ホストのオーラなんかじゃ無い。トップを取りたいという、野心だ。その為には彼は、たとえ汚い事でもどんな卑怯な手でも、何でもするだろう。目の前に立ちはだかる者は徹底的に潰しにかかるだろう。ヒロの強い瞳は、揺るぎない信念と野望で燃えていた。


 身体が、震える……

 こんな……こんな人に私は勝てるのだろうか。


 もちろんうちだって、負ける気なんて無い。ティアーモのみんなは、ジャスティスからお店を守ろうと必死に頑張っているし。青葉だって本気だ。だけど、彼のようにホスト界のナンバーワンになる事を目指しているわけじゃ無い。

 こんなにも真っ直ぐに向けられた強い野望を、払い除ける事が出来るのかは分からなかった。


「他に用が無いならもう行くぞ。俺も忙しいんだ」


 ヒロはそう言うと、行ってしまった。私は人の行き交う雑踏の中、尻もちをついたままその場を動けないでいた。