「夢。」

「あ、うん。」

「送るよ。」

「いいよ、大樹先輩。
一人で帰れる。」

「なーに言ってんだよ。
さ、行くぞ。」


大樹先輩はあたしのバックを持って、


「紗也ちゃん、藤真君、また遊ぼう。」


そう言って、ホテルの玄関に向かって歩いていく。


「え、」


小さく、戸惑う声を紗也さんが出すのが聞こえたと同時、

「大樹さん。」

「ん?」

「俺が送ります。」


まさかの藤真君の申し出。


「藤真君。」

「…俺が送る。」

「…。」

「…なに?」

「…あ、えと、」


藤真君の申し出は嬉しかった。


でも、迷惑はかけれなかった。

 
困ってるのが、分かったんだろう大樹先輩が、


「藤真君悪い。
今日だけは俺が送るよ。
雨が降りそうだし、早く帰った方がいい。」


そう言った。


「大樹さん。」

「ん?」

「夢ちゃんは藤真の彼女、ですよ?」

「ははっ。知ってるよ。」

「…だったら、…、」

「うん。でも、今日だけ。
ごめん、藤真君。」

「…。」


……紗也さん。


やっぱり紗也さんも大樹先輩を?


前から薄々気づいていたけど、紗也さんも大樹先輩を好きなんだろう。


だから、あんな不安な目をしてるんだ。


「行こう、夢。」

「……うん。
あ、えと、紗也さんすみません。今日だけなので。」

「あ、ううん。
…またね、夢ちゃん。」


紗也さんと大樹先輩に申し訳なく思いながら、頭を下げてその場を去る。


結局、迷惑かけちゃったな…。



藤真君がどんな顔をしていたのか、


あたしは全く気づいていなかった。