これ以上、聞いてるのもどうかと思って、


歩き出したあたしの目に、向こうからやって来た藤真君の姿が写った。


ど、どうしよう。

声をかける?誰もいないし、いや、教室にはいたけど、

小声なら、すれ違いざまに少しだけなら、


そう思って声をかけようとしたその時。


♪~


藤真君のスマホが着信を告げる。


下を向いて歩いていた藤真君は、あたしがいることにも気づかず、


「…はい。
…なに?今日?…いいけど。」



あたしは、咄嗟に視界にうつらない内に、すぐ近くの教室に入った。



「はは。そんかし、ケーキ作って。
チョコレートの。」


 
「…っ、」


分かった。

電話の相手はきっと、…藤真君の好きな人だ。



あんな風に優しい口調で話すなんてずるい。

会話してるなんてずるい。

いつも一方的に話して、もらえない返事をひたすら待ってるあたしは、一体なんなんだろう。