「あの人が言ったの?」

「うん。」

「…、そう。」


あたしの言葉に、お母さんは静かに話し始めた。


お母さんには結婚前に憧れの人がいた。

付き合っていたわけじゃない。

ただの憧れ。

あの人と結婚してその想いも薄れるぐらいのもの。


仕事人間のあの人に不満がなかったわけじゃないけど、

あたしが産まれて、幸せな日々を過ごしていた。


憧れていたその人に再会したのは、偶然。

近況を話して、昔話に花が咲いて、

度々会って話して別れる。

ただそれだけの付き合いだった。


裏切りはなかったと。


だけど、あの人は疑った。

何度言っても理解は得られなかった。