ほんとにいいのかと、大樹先輩の目が問う。

コクンと小さく頷く。


ポンッとあたしの頭に手を置いて、


「紗也ちゃん。」

「…ん。」

「話聞いてくれる?」

「…うん。」

「ん。中、入って。…藤真君も。」


大樹先輩の言葉に、ビクッと反応したのはあたし。 


「…た、いき、先輩。」


さっき向けられた藤真君の冷たい視線が少し怖かった。

思わず大樹先輩に助けを求めてしまったあたしに、


「…んだよ。」


そう言って、藤真君がドアから手を離した。


「あ、待って。藤真君!」


大樹先輩がドアを押さえて彼を呼ぶ。


「藤真君!…っ、…夢、彼も誤解してるよ。」

「…っ。」

「俺が行く、」
「大樹先輩、あたしが行くっ。」


そう言って、ザッザッと早足で歩く藤真君を追いかける。


ほんとは、藤真君のあの冷たい視線や、怒ったような口調が怖かったけれど、

誤解なんかしてなくて、むしろ、気にもしていないのかもしれないけど、


「藤真君!待って!」


マンションの駐車場を抜けて帰って行く彼を呼び止めた。