大樹先輩に抱きしめられて、ようやく落ち着いてきたあたしは、すっかり忘れていた。


大樹先輩が、紗也さんに連絡したことを。

紗也さんに、藤真君に伝言を頼んだことを。




ガチャッと開いた家のドア。

先に反応したのは大樹先輩で、


「っ、紗也ちゃん！？」

「あ、の、…何度か連絡入れて、インターフォン鳴らしたんだけど、あ、あの、」


戸惑う紗也さんの声。


「いきなり来て、ご、ごめんね。あの、おじゃま、しました。」


ドアを閉めようとする紗也さん。


「あ、ちょっ、ちょっと待って紗也ちゃん。
誤解だから。」


慌てて紗也さんを呼び止めながらも、あたしを突き飛ばしたりしない大樹先輩。


「紗也さん！ま、って、待って！」


そんな優しい大樹先輩とは対照に、あたしは慌てて離れる。

誤解させるような行動をとってしまった責任もあって、紗也さんを呼び止める。


ドアを見れば、電気も付けずに玄関先にいたあたしたちを照らすように灯りが入ってきている。


「…夢？」

「！」

「…、嘘だろ？」

「…と、うま君。」


あたしたちに呼び止められたからか、ドアの向こうで立ち止まってくれた紗也さんの影がマンションの灯りで確認出来た。

同時に、その後ろで、

片手でドアを抑えて立つ、藤真君の姿も見えた。