「おじゃまします。あー玲ん家だ」
「当たり前でしょ」
「そうなんだけどさ、変わらないなここはいつになっても」

涼が座っているソファー、そこは10年前まで明貴の定位置だった。

「...そうだね」
「ねぇ涼、今日泊まってよ」
「いいけど、急にどうしたの?」
「...別に?」

そこに明貴がいる気がして、明貴の声が聞こえてくるようで耳を塞いだ。

「...玲?大丈夫?顔色悪いけど」
「大丈夫。涼ご飯は?」
「食べてない」
「じゃあご飯作っとくから、先お風呂入っておいで?」
「ありがとう」


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「で、会社で何が智秋と何かあったの?」
「玲がいて良かった。いなかったら俺...」





10年前、玲は明貴とケンカ別れした後一人暮らしを始めた。
2階にはまだ明貴の面影が残っていた。
そんな中、明貴と玲の両方から恋愛相談を受けた。
玲の願いが叶わないと分かった時、俺は玲を守っていこうと決めた。
俺は何度も泊まりに来て、玲の家に俺の存在を残した。
明貴との思い出を消していくように俺との思い出を増やした。
俺といる事が幸せだと思ってほしかった。
リビングから玲の泣くこえが聞こえてきた。

「1人で泣いてんじゃねぇよ」

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「なぁ、これお前のじゃね?」
「だね。まぁいいじゃん似合ってるし」
「はぁ?」

風呂から出てきた涼はどこかすっきりしていた。

「玲、明日は仕事?」
「休み」
「じゃあ、飲み直すか?」
「寝る」
「じゃあ俺、たばこ吸ってくる」




(玲さーん。君は俺の気持ちに気づいてるんですかー?
本当は玲の事が好きなんだよー)


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「ただいま...寝てんのか」

玲はソファーで寝ていた。

「俺ががいてやるからな」

玲の頬を伝う涙を拭って、ベッドに移動させた。
(玲の方が辛い思いをしてるよな、きっと。)

〈プルルルルルル...〉
(っ!)
玲の電話にかけてきたのは永司だった。

「はい」
「“玲起きてる?”」
「玲は寝てる。どした?」
「“お前かよ、なら話は早いわ”」
「なに?」
「“玲を通して言おうと思ったけど俺智秋と付き合う事になったんだわ”」
「なるほどな」
「“ごめんな”」
「いや、お前から聞けて良かったわ」
「“お前には悪い事したな”」
「いや、大丈夫。俺も守りたい奴見つけたし」
「“玲か”」
「まぁ、そうだな」
「“お互いに頑張ろうな”」
「おう、じゃおやすみ」
「“おやすみ”」

〈ツー、ツー...〉

智秋と永司が付き合うのはなんとなく分かっていた。

「智秋?永司?」
「ごめん起こしちゃったな、永司から」
「永司か。で、何の話?」
「お前には関係ねぇよ」
「いって、叩くなよ」

言うなら今しかない。守りたい人。大切な人。

「なぁ、玲」
「んー?」
「俺さ、好きな人がいるんだよな。そいつは一途で泣き虫で素直じゃなくてかわいい人。強がりで1人で抱え込んで、1人で泣いてさ。
でもな、俺はその人のことを守りたくてさ な?玲」

玲にちゃんと伝わったかどうかは分からない。けどちゃんと言えた。

「玲がずっと明貴とのことを引きずってるのも、1人で泣いてんのも抱え込んでのも知ってる。だから、お前を守っていきたい」
「涼...!」
「いたいよ笑」
「涼が泊まりに来てくれるのがものすごく嬉しかった。でも、帰っちゃうのがものすごく寂しかった。私も涼の事好き。」

玲の返事はYESだった。


「…グスッ ありがとね涼。明日片付けしなくちゃ」
「俺も手伝うよ。いろいろ持ってくるもんあるし」
「そんなに持ってこないでよ?あの部屋狭いし」
「そんなに多くねぇよ」
「そっか。(...明貴が写ってる写真は置いてくるか)」


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いつだって周りに支えられて生きてきた。
1人が怖かった。だからあの日からずっと泣き続けていた。
虚無感、孤独感、不安、恐怖いろいろなものに夜な夜な怯えていた。
目を閉じると蘇る10年前の事。15歳だった。
[もういい、別れよ。お前といても楽しくねぇわ]
あの日も今日と同じ雨の日だった。

1月13日。
私が1人になった日。そしてまた恋を始める日。


「どした?玲」
「なんでもないよ、眠いから寝よ?」
「そうだな、おやすみ玲」
「うん、ほんとにありがとね涼...好きだよ。」
「俺もだよ。玲」


ずっと1人で寝てたこの布団。もうひとりじゃないんだ。

「...玲、寝れない?」
「ううん、隣に誰かいるのなんて久々で」
「ずっといてやるからな」

涼となら何だって出来る気がした。涼となら辛い過去も消せる気がした。