昔ながらの商店街の真ん中に出来たドイツバルは盛況で、なんとかカウンターの隅っこに空いた席を一つ見付けて腰掛けた。


回れ右して店内を見渡すと、男女ペアの客ばかりで、非常に居心地が悪い。


すぐに正面に向き直すと、バーカウンターの中では長身の男性バーテンダーが忙しそうに立ち働いている。


ひょっとして、気付かれてない?


自分から声を掛けなきゃダメ?


なんて言うの?


「すみません」でいいの?


それとも、「注文お願いします」がいい?


そこで気付く。


私、何を注文するのよ。


慌ててキョロキョロ。


カウンターの手を伸ばせば届く範囲に、ラミネート加工された一枚物のメニューが目に入った。


隣席の客の邪魔にならないように手を伸ばそうとした、その時。