「好きだよ。」









精一杯の思いを込めたこの言葉。

今までの事とか、全部消すくらい強かった想い。










「あっそ。」





そいつはどこまでも最低だった―――。














「まーた見てるし。」


見たくて見てるわけじゃない。



見たくなくても目線が行くんだから仕方ない




「あんなののどこがいいの。顔だけだよ。」



そう。顔だけだよ。


あの顔が好きで好きでたまらないんだから。





「いい加減やめたら。」




やめれるもんなら、とっくにやめてる。





「ほんと、好きだよね。」




好きだよ。



好きすぎておかしくなるくらい―――。














「シア。」



「ん?」

友達のウザそうな声が聞こえ、あいつから視線を外してそっちを見る。


「あんた、あいつ見たいがためにこっちのクラス来るのやめて。」

なんで。見たいんだもん。


普段、全然会えないし


「何言ってんの、私はミオに会いに来てるんだよ。」


相澤 美桜 アイザワ ミオ

私と同い年の高校2年生。

小さい時から一緒で、私の事なら私より知ってる一番の心友。

だからこそ、やっかい。


何かとうるさいから。









「あ。私、次化学だから行くわ。」

そんな心友に背を向け歩き始めれば、後ろから聞こえてくる不満の声。


「あんなヤツやめなよー!」



私の一番の心友は知ってる。


私がどれくらいあいつが好きか。


忘れたくて、

離れたくて、

それすらさせてもらえない私は、いつまでもあいつの玩具だろう。



まぁ、それでもいんだけどね。


















「ずっと好きでした。俺と付き合ってください。」


クラスではイケてる方に入るこの人。


この人と付き合えば、あいつを忘れられるかもしれない。




なーんて。


無理無理。




「ごめんね、今は恋愛とか考えてないんだ。」




何度試したことか。

でも、全然忘れられなかった。

私を好きだと言ってくれて。

凄く大切にしてくれて。



そんな人たちでもダメだったんだから。

いくらかっこよくても、いくら優しくても

私はあいつ以外は無理らしい。








なんであいつなんだろうなんて、もう考えるのはやめた。

だって、あいつじゃなきゃダメだから。

ただそれだけの理由。

どれだけ最低でも、あいつが好きだから。


「はぁ。」


黒板に文字を書く音と、クラスメイトの声が

吐き出したため息をかき消す。




ノートの片隅に文字を書いては消す。

私が一番好きな漢字。


‘’智冬瀬‘’ チトセ

私が好きで仕方がないあいつの名前。

玖弥夜 智冬瀬 クミヤ チトセ


名前そのものがあいつを表していて、


冬の様に冷たい瞳に、私は恋に落ちた。










‘’一目惚れ‘’だったんだ―――。














トンっ

軽く肩に当たったそれ。

見なくたってあいつだってすぐ分かる。


そのまま歩いていく背中を眺めながら、今日も思うんだ。


あぁ。好きだなーって。


「うゎ~。」

見られた。



「あーゆーのがダメだよねー。」


「別にいいでしょ。」


「私、あいつ嫌いだわ。」


「知ってる。」

ミオはあいつが嫌い。

それは最初から。

皆でかっこいいと盛り上がっていても、ミオだけは否定し続けていたし。

まぁ、ミオが嫌ってようが関係ないけど。






「ほんとシアって損してるね。」


そう言われるのも慣れた。

別にナルシストな訳では無い。

でも、あれだけ告白されればまぁまぁ自分が可愛いって事は分かる。


「好きな人に好きになってもらえないなら、可愛くても意味無いから。」

可愛いって言われても、好きな人に好かれてないんじゃ意味がない。

「その顔、私が貰いたいわ。」

そんな事をいうミオは、なんだかんだ言って彼氏とはラブラブ。

おたがい相思相愛で、見てるこっちが恥ずかしくなるくらい。