最近私は恋に落ちているようだ。クラスであまり目立たない彼に。
普通なら、イケメンやムードメーカーを好きになると思うのに、
なぜだか彼…結城慎司(ゆうき しんじ)が好きになってしまった。
名前も大人しそうだし、見た目は本当に大人しい。
人付き合いはクラスのお宅と呼ばれる一部と多少の交流程度だ。

それに比べ、私は化粧もするし女友達と夜にカラオケに行くようなタイプだ。
花に興味があるのか?と聞かれれば対して好きでも何でもない。
共通の話題もないし、実は幼馴染とかいう展開もない。
けれど、私は彼の小さな小さな秘密を知ってしまったのだ。

「…ん。…さん。宮野(みやの)さん!」
「ひゃい!?…って、結城くんか。何の用?」

結城くんは普段誰かを必死に呼ぶようなことはしない。
ということは何かあったのかな。
苗字だけど、覚えていてくれたのが嬉しかった。
いつかは、里香(りか)って呼んでもらいたい。

「今日までの課題、宮野さんだけ出てないんだ。
だから、どうするのか聞こうかと…」
「え!?今日まで!?って、どの教科!}
「え、えと…数学」
「やばい!やってない!」

どうしよう、何も考えないで生活していたから
課題のことなんて頭の中から追い出していた。
私の友達なんて、たかが知れてるレベルの知力しかないし。
諦めるしかないか…。

「えー里香まだ終わってないのー?」
「やばいんじゃない?次落としたら退学とか!」
「やば、うけるー」

ほら、この程度。何もうけねえよって怒りたいけど、これは自業自得。
人の不幸を笑う友達のことを怒れる立場でもない。

「…宮野さん?」

結城くんが心配そうに覗きこんできた。
前髪で瞳が見えづらいけど、声がそんな気がした。

「えと…知らせてもらって悪いけど、私数学苦手だしやってないから諦める…」
「よければ。よければ…その、教えよう…か?」
「うぇ!?」

さっきから変な声ばかり出ている気がする。

「で、でも…今日までなんでしょ?間に合うわけないよ」
「大丈夫。どうしても間に合いそうになかったら、僕のを写させてあげるよ」

結城くんは天使だった…。
じゃなくて、なんていう幸運。まさか、彼がこんなことを言ってくれるなんて…。

「ええと…間宮さん?大丈夫?」

おおと、感動のあまり意識が薄れていたようだ。

「結城くんありがと!ぜひお願いします!!」
「あ、うん」

私は思いっきり結城くんの手を縦に振った。

「それじゃあ、放課後に教室に残っててね」
「うん、わかった!」

こうして、私は彼と課題を進めることになった。