3人組を追い払った椋は、ちょうど今座っているベンチにランドセルとPコートを投げると着ていた長袖の袖をまくった。
それは当時真冬だった景色にはあまりにも不釣り合いで。
涙も、止まったっけ。
そして、そんな私を見て椋が言ったんだ。
「負けんじゃねーよ、あほ。」
さっきのにやり、よりも少しだけ優しさをはらんだ笑みをひとつ私に向けると、
──── バッシャアアアアアン
極寒の噴水の中に、飛び込んで行った。
「むっ、椋!?」
突然の光景に、思わず立ち上がって噴水のそばまで行く。
「な、なにして……っ」
「あれ、お前の大切なもんだろ!」
あれ、とはもちろん投げ入れられた髪留めのことで。
たしかに大切にしていた。
毎日のように学校に付けていくくらい。
「お前、大切なもんそんな簡単に手放すなよ、後悔してもあれと同じものはもうどこにもねーんだから」
本当に小4じゃないと思う。
「ははっ、あの時の椋かっこよかった、ふはっ」
「もう思い出すな、マジで恥ずい。」
本気で恥ずかしいらしい椋はすっ、と反対側を見てしまった。