「ユリがかわいそう? 私は? 私はかわいそうじゃないの?」

「ちょっと待てって。なんで怒ってるんだよ」

「なんで怒ってるかわかんないの?」

 シンちゃんは無言になった。

 何が私の逆鱗に触れたのか、頭を巡らせているようにも見えた。
 けれど考えることをすぐに放棄するのも、また、シンちゃんだった。

 棚から花瓶を取り出し、水を注ぐとユリを活け始めた。
「ユリって意外と強いんだな」と、まだ硬い蕾が目立つ白いユリを眺めてシンちゃんが言った。

「私はそんなに強くないんですけど」

「百合じゃないよ。ユリの花のこと言ってんの」

「花のユリが弱いとか強いとか、そんなことどうだっていいって言ってんの! なんで無職のくせにパチンコに行くの!? なんでお土産に花とか買って来るのよ! そんなの買うくらいなら電気代払ってよ!! こんなギリギリの生活、もううんざりなんだけど」

 腹の底に蓄積されていた鬱憤を吐き捨てた。

 シンちゃんはじっと私を見つめていた。痛いほど真っ直ぐな眼差し。何だかその視線が心地悪くて、目を逸らしたのは私のほうだった。