何度言ったところで出来ない。
 出来ないんじゃなく、やろうとしない。
 私がするからいけないんだ、と思った日もあり、そのまま放置してみたことがあった。

 けれどいつまで経ってもシンちゃんはしない。
 だから最後は根負けして私がすることになる。

 スープを流すとシンクに油が膜を張った。洗剤をつけてガシガシと洗う。
 シンクはピカピカになったけれど、私の気持ちは虚しさばかりが漂っている。

―――桐生さんに電話しなきゃ。

 思い出した私はメモを見ながら電話した。

「……あの、桐生さんの電話番号ですか?」

 はい、と言ったその声は男性のものだった。

「大滝美智子さんから、その、」

 てっきり女性だと思い込んでいた私はしどろもどろの口調になる。
 すると、桐生さんは「ああ!」と明るい声を出して、「野島百合さんですか?」

 私のフルネームを口にした。
 まさか男性からアクセサリーの注文を受けることになるとは考えてもみなかった。

 しかも1つ2つの注文ではなく、20とか30とか、びっくりするような個数を言われ、言葉に詰まってしまった。

 女性用のアクセサリーをそんなにたくさんどうするんだろう。心の疑問が届いたのか、桐生さんが電話越しに苦笑いした。

「大滝さんから何も聞いていないんですね」