明確に別れを考えていたわけではないけれど、日々の生活に疲れ切っていた私は漠然とした不安に苛まれていた。

 シンちゃんを好きな気持ちに変わりはない。
 けれど「百合」と私を呼ぶシンちゃんの声が「ママ」とか「ご主人様」に聞こえてならなかった。

 にこにこ笑顔で尻尾を振り、無邪気に飛びついてくるシンちゃんを愛おしく思う一方、いつまで経っても成長しない仔犬のお世話を負担に感じていた。

 仕事して、お腹を空かせた仔犬にご飯を作り与え、粗相をすれば「仕方がない」と鷹揚に片付けて、「次はちゃんとしようね」と言い聞かせる。

 それでも数日もすれば同じ粗相を繰り返す、そんな生活が4年以上。
 私もシンちゃんも30歳を目前に控えているのに、私はいつになれば仔犬のお世話と躾から解放されるんだろうか。

 疲れていた。とにかく。私は疲れていた。