悲しさや怒りより「これでシンちゃんに相談する口実ができた」と胸が微かに弾んだのを覚えている。
 彼氏に裏切られた気の毒な彼女である私を、シンちゃんは精一杯慰めてくれた。
 本音を言えば、あまり悲しくはなかった。
 むしろ、シンちゃんが優しい言葉をたくさん与えてくれることが嬉しかった。

「俺だったら百合ちゃんのこと絶対に泣かしたりしないのに」

 それから私たちは何となく一緒に過ごし、何となくシンちゃんの部屋に通い始め、何となく彼氏彼女になった。

 確かに女関係でシンちゃんに泣かされたことは一度もない。
 それだけは有言実行してくれている。

「でも……」

 目元を掠めるサラサラの前髪を指先で払うと、シンちゃんの瞼がピクリと動いた。
 眠っていても、身体のどこかが触れていないと不安になるのか、私が起き出すといつも「百合?」と目を覚ますような人だった。
 出窓から月明かりが伸びる狭い部屋。ベッドの中で私はぼんやりと思った。

―――私がいなくなったらシンちゃん生きていけるのかな。