―――シンちゃんはどうしようもない人だった。

 お金にルーズで、人の話は聞かなくて、趣味はパチンコとゲーム。散財するくせに仕事は続かない。

 文句を言っても「知ったこっちゃない」みたいな顔でゲームして、私が本気でキレたら泣きだすような人だった。

 子供のほうがまだ聞き分けがいいんじゃないの? と思うくらい、どうしようもない人。いっそ女癖まで悪かったら「どうしようもない人」じゃなくて「最悪な人」の烙印を躊躇わず押せたのに。

 けれどシンちゃんの女関係はどこまでも明朗で、一度だって浮気を疑ったことはなかった。

 在り来たりな言葉だけれど私への愛情は海より深くて、霧より濃くて、鉄くずのように重たかった。

「俺、百合がいたらそれでいいもん」

 そう口にするシンちゃんは、何だか悲しくなるくらい私しかいない人だった。

 もう10年以上も昔に別れた男をこんなふうに思い出すのは、いつもユリの花がきっかけだ。

 私の名前が百合だから、たったそれだけの理由で花に興味もないくせにユリの花束をプレゼントされたことがあった。

 ありがとうと受け取りはしたけれど「花を買うくらいなら電気代よこせ」と支払い期限が迫った請求書のことで頭がいっぱいだった。