「で、ギター始めたのはいいけど、モテたい相手が近くにいないことに気づいてしまったわけだ。H高の人ってそういうことに冷たいし。
もうヤケっぱちだよね。
やめるのもシャクで弾きまくっていたら、相思相愛になっちゃった。」

翔太サンは隣のギターをまぶしそうに見つめた。

「オレ、2年になってからケンイチに会えて嬉しいんだ。
あいつ、変じゃん?
何でも楽器に手を出すし、自分で作曲するくらい音楽好きなくせに、人前で弾かない。
もったいねーって思うけど、あいつはあいつの法則みたいなので自己完結してて―――いいよね、なんか。」

(なんか分かる)

気がする。
翔太サンはケン兄のそういうところちゃんと理解しているらしい。
意外なような、そうでもないような…。

(よく、わからない人)

ちょうどその時ガチャリ、とドアが開いた。
ペットボトルを持ったケン兄が私の視線に気づいて「?」って顔をする。

ふと翔太サンを見ると目が合った。

『今のナイショね』

目がそう言っていた。